研究概要 |
1.宋代宗族の構造 蘇州の范氏義荘を題材に、宋代宗族の構造を考察した。とくに宋代に成立した「房」に注目し、「房」とは本来、家の中の部屋を指す言葉であるが、子孫が増えて家が拡大するにつれて、宗族の派別を指すようになったことを明らかにした。蘇州范氏には16の房があったが、それは北宋の義荘成立時から既に存在したわけではなく、北宋から南宋にかけて次第にできあがり、南宋中期の義荘復興時に確立した。このような宗族は組織や団体によって構成されている反面、その内実は人々のつながりによって構成されていた。その構造は喪服図に見られるように、タテとヨコの関係からなる螺旋構造であることが判明した。 2.移住と宗族 ついで、このような宗族を生み出した人々の生活と移住について考察した。その結果、蘇州の范氏は華南の蘇州から華北の穎昌へ移住し、郷里の人々とは目常生活を異にして過ごしたことを明らかにした。しかし、この移住は「寄居」と呼ばれるが、彼らは手紙や人の往来によってに移住先から郷里の人々との族的関係を保持していた。その意味で、彼らの移住は極めて戦略的な、利得還元のための移住と言える。その思想や意識は現代の華僑にもつながっており、彼らの根底には宗族の思想があると結論づけた。以上の2点については、2004年8,月にモスクワで開かれた「国際アジア北アフリカ研究者会議」、および同年12月に台北で開かれた「国際アジア歴史学家学会」において発表した。次年度はこれらの総括を行う予定である。
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