平成15年度は、東洋文庫所蔵の中国清朝文書である「〓紅旗満洲衙門档案」の光緒朝時代の部分を、研究補助者の力を借りて整理・分類した。清朝の基幹組織であった八旗のひとつじょう紅旗満洲の役所(衙門)の文書(档案)は、同治以前の部分がすでに役所によって不要部分は処分されており、中央機関との往復公文書しか残されていない。今回調査をしている光緒以降の分については、中央または同列官署に公文書を出すために役所内でやりとりされた稟議書などが残されており、清朝時代の八旗官署がいかなる意志決定過程をもって中央や他官署とやりとりをしていたのかを知る無二の資料である。整理の結果、官署での意志決定に際して重要なやりとりをした際のメモや文書の下書きも発見された。文書作成のメカニズムを解明するためにはもうすこし時間が必要であるが、次年度は今年度に引き続いて、光緒朝の残余部分および宣統朝以降の部分を整理・研究したい。なお、資料の詳細な部分の判読および研究公表に必要な機器としてディジタル・プロジェクタを購入した。 この研究と並行して、清朝官人が満洲語文書を作成する際に利用した、語学パンフレットの類の調査を実施した。これら数葉の小冊子はさほど貴重とは思われなかったようで、中国、台湾にはほとんど残されておらず、現在これらの資料は、イエズス会宣教師によってヨーロッパにもたらされたものがほとんど唯一現存する。今年度は、ヴァチカン市国等において調査を実施した。その結果、おそらく宣教師が満洲語を学んだ際に用いたと思われる辞書類、また絵入りのグローサリ等を発見した。これらはいずれも清朝時代に満洲人を含めて満洲語を学習する人向けに作成された簡易工具書で、中国等の現地ではあまりみられないものであり、当時の官人また官人候補者の満洲語学習の過程ひいては文書作成能力の問題を考える上で極めて貴重な資料と考えられる。次年度も継続してこの問題を検討していきたい。
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