本年度は、主として次の3点を中心に研究活動を行った。すなわち、(1)『新唐書』沙陀伝の訳注作成作業の進化、(2)従来の沙陀突厥史研究の整理と問題点の抽出、(3)国際学会における成果の一部の発表、である。以下、順に概要を述べたい。 (1)では、唐初期に中央アジアに沙陀都督府が設置されたことを伝える史料は『新唐書』沙陀伝と『旧五代史』唐書・武皇紀のみであり、他の史料には一切見えないなど、いくつかの沙陀伝の問題点を見いだすことができた。これらの問題の多くは、『新唐書』を編纂した宋代史家の独自の合理的解釈によるものと思われ、そうした視点に基づいて沙陀伝を史料批判する研究が極めて重要であり、最終的報告書では特に指摘したい。 (2)では、これまで発表された沙陀史に関する専論は、日・中・西をあわせても著書1点(中文)、論文28点と比較的に少なく、しかも、かつては沙陀族を単一民族ととらえていたのに対し、近年では突厥系・ソグド系・漢族系などの複合種族ととらえる傾向にあることがわかる。こうした変化は研究の進展を背景としており、歓迎されるべきではあるが、それでも依然として沙陀伝に依拠する部分が少なくない。沙陀伝を批判的に分析する必要が、ここでも指摘されよう。 (3)では、2004年25日〜28日に中国・雲南省昆明市で開催された中国唐史学会第9回年会「唐宋社会変遷国際学術研討会」において、「『晋王李克用墓誌』録文与沙陀的譜系」と題して発表した。唐末期の沙陀族首領である「晋王李克用墓誌」と『新唐書』など諸史料との比較分析を行ったものであり、幸い全体会議で報告させていただいたので、多くの優れた指摘を得ることができた。 次年度は、以上の作業で得られた知見をもとに、成果報告書を作成する予定である。
|