平成15年度は、サーズ流行の影響で中国開催の学会には参加できず、『新唐書』沙陀伝の訳注作成のための史料を収集するなど、基礎的な作業に重点をおいた。 平成16年7月、中国雲南省昆明市にて開催の「中国唐史学会国際研討会」に出席し、沙陀族の「李克用墓誌」にもとづき、沙陀の系譜を再検討する報告を行い、出席者と意見交換を行った。 本年度は、これらをうけて、従来の沙陀族に関する研究論文を収集し、その研究傾向を分析した。 従来の沙陀族研究は、(1)沙陀の系譜を分析したもの、(2)山西地方に移住した後の沙陀勢力の構造を分析したもの、(3)沙陀とソグド人の関係を分析したもの、(4)沙陀の漢化を分析したもの、の大きく4傾向に分類できる。このうち、(1)については、「李克用墓誌」の出現により、従来の見解は改められるべきであることが判明した。 現在、学界で最も注目されているのは、(3)の沙陀とソグド人の関係である。この点については、「沙陀」と称する場合、本来のテュルク系沙陀の中核勢力を指す場合と、ソグド人など他種族と融合したより大きな勢力を指す場合の、両方の使用例が存在することを念頭に置かねばならない。前者は狭義の沙陀、後者は広義の沙陀と解してよい。沙陀研究の基本史料となる『新唐書』沙陀伝も、この両義が混在している。広義の沙陀が形成されるのは、沙陀の山西地方移住後であることも解明されつつある。 以上の成果により、『新唐書』沙陀伝訳注の作成作業を行った。したがって、本研究の報告書は、従来の研究動向の分析と、『新唐書』沙陀伝訳注とから作成する。
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