平成16年度は明代の海禁に関して、以下の二点を中心に分析を行った。(1)「海禁」概念の形成の時期。(2)明代海禁の特徴。(1)は従来の研究では全く欠落していた観点であり、実態として明初から存在する海禁が、15世紀後半に一旦機能麻痺に陥った後、16世紀になって再建を議論する中で、海禁という概念(用語)が形成されたことを論証した(「明代海禁概念の成立とその背景-違禁下海から下海通番へ-」『東洋史研究』63-3、2004、12)。また(2)については、元・明・清の海洋統制策はそれぞれ別個のもので、海禁とは誰もが容易に出海できる社会的経済的環境と、強大な専制権力の誕生という政治的要件とが合致して初めて実施されたこと。その意味では、「元の海禁」は単なる商人の出海規制にすぎず、海禁はあくまでも明清時代ならではの海洋統制策であったこと。しかも明の海禁は、朝貢制度と合体した明代独自の海禁=朝貢システムを生み出しており、この点において民間貿易を認める清の海禁とも性格を異にすることを明らかにした(「明代「海禁」の実像-海禁=朝貢システムの創設とその展開-」『港町の世界史』青木書店、2005年出版予定)。 この他、16年度には中国社会科学院歴史研究所の陳高華氏を研究協力者として日本に招聘し、京都女子大学において共同研究を行い元代の海洋統制に関する多くの情報を得た。この間、氏とともに北九州の元寇・倭寇・中国海商関係の史跡・資料館を調査した。以上の成果を踏まえて、17年度には研究のまとめを行うつもりである。
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