本年度は平成15年度・16年度の研究成果を踏まえ、その総括を行うことを目的に研究を進めた結果、海禁の時代区分について次のような結論を得た。 1、中国の海外貿易が最高潮に達した元代の「海禁」……萌芽期。 2、強大な専制権力によって初めて全国的に実施された明前半期の海禁……確立期。 3、後期倭寇と密貿易の攻勢に押され、部分的に緩和された明末の海禁……再編期。 4、17世紀末に海関制度とドッキングして新たに出発した清中期の海禁……修復期。 5、アヘン戦争以後、19世紀末までの清後半期の海禁……崩壊期。 1は一般に「海禁」と呼ばれているが、海商の出海規制を目的とするもので、海禁とは本質的に異なる海洋政策である。2の時期には沿海部の民衆の出海が常態となり、中国に強大な専制権力が生まれたことで、初めて民衆全体を対象に海禁が実施された。しかもこの時期には、朝貢制度と合体した海禁=朝貢システムが誕生し、海禁は国際秩序の確立にも貢献する。2の反動として密貿易が盛行し、それに対処するため月港を開放して、新たな海禁体勢を創出したのが3である。3から4にかけては、王朝の交替などで一時海上の混乱が起こるが、4になると国際貿易を前提として、海関体制のもとでの海禁が施行される。しかし5のアヘン戦争以後、開港場の増大で清朝の対外政策は変更され、やがて民衆の海外渡航が許可されて海禁は消滅する。本研究では、4と5については展望に留め、1〜3を中心的課題として分析を加えた。 なお、本年度には中国社会科学院近代史研究所の張徳信氏と山東大学の陳尚勝氏に来日していただき、共同研究を行ったほか、海禁関係の論文目録も引き続き作成した。
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