代表者は、これまでの研究のなかで、「報捐」と呼ばれる捐納をして官職などを購入した段階のことについてすでに明らかにした。 今年度では、科学研究費補助金の交付を受けて、当初提出した研究計画にしたがって、捐納をして官職を購入した者(以下、「捐納出身者」と称す)は、その官職を購入したあとの進路を明らかにすることを目標にして、研究を行った。その結果、新たに得た資料をもとに、「清代の捐納制度と候補制度について」(『中国近世社会の秩序形成』、京都、京都大学人文科学研究所、2004年2月出版予定)と題する論文を執筆した。拙論のなかで新たに得られた主な知見は以下である。 1、「月選」と呼ばれる中央吏部で毎月のように行われていた清代地方文官の銓選制度を説明し、さらに新しい資料をもとにその実態、つまりすべて地方文官のポストは「月選」の対象ではないことを明らかにする。 2、新たに得た資料をもとに、捐納出身者の銓選問題を検討し、彼らが吏部の「月選」で登用されるのは非常に難しいことであると指摘する。 3、一時的に職を離れ、これから職務に復帰しようとする者を対象に作られた清代候補制度の概要を説明したうえで、一部の捐納出身者は登用の難しい「月選」を避け、「在外候補」の制度を利用し候補官となって、地方での直接登用を狙うことをはじめて説明する。 4、清末における候補官の実態(人数など)を説明し、登用されるまでの臨時性の仕事である「署事」と「差委」の制度をはじめて明らかにする。 5、捐納が頻繁に開かれる清末において、すべての捐納出身者と進士などの「正途」出身者の登用は行き詰まった。官僚制度の歴史から考えれば、伝統中国と伝統中国の官僚文化を長く支えてきた官僚制度内部にある千年以上にわたって蓄積されたエネルギーはほぼ燃え尽きて、自らの終点に接近したことを意味する。 追伸:平成15年度、SARSの流行を受けて、国内での資料調査と収集に重点を置き、国立国会図書館などに赴いて、資料の調査収集をした。海外での資料調査と収集は平成16年度に実施したい。
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