研究課題
基盤研究(C)
この研究の成果としてまず第一に、「ネイション・アドレス」について国内外の史料をひろく、また効率的に参照し、明らかにできたことがある。「ネイション・アドレス」とは当時の証書冒頭の挨拶部分における「ネイション」へのよびかけである。これがノルマン・コンクェスト直後から、イングランド王の支配領域において、また彼らと密接な関係にあったスコットランド王の支配領域でものちに、みられるようになったこと、基本的には「フランス人とイングランド人」宛てであるが、地域によってヴァリエイションがあること、総じて司教の証書には国王のそれほどにはみられないこと、12世紀後半にはみられなくなること、などが基本的特徴として確認できた。この「アドレス」がみられなくなる理由としては、かつて筆者が指摘した、「フランス人」と「イングランド人」の同化が進展したという説明はなお有効であろうが、一方、ダラム司教区のようないささか例外的事例からうかびあがってくるのは、証書の記載形式自体の伝播・変化という可能性であった。この点については、今回の研究で十全に展開し得なかった叙述史料分析との関連とあわせ、交付内定を得た平成17〜18年度の科学研究費補助金でさらに検討する予定である。またアイリッシュ海に位置する「マンと諸島の王国」を視座の中心におき、中世アイリッシュ海世界のありかたについて、一次史料に基づいた考察をおこない、学問的水準をふまえた、当該期前述王国の変遷またアイリッシュ海世界をめぐる権力抗争のありかたを明らかにすることができた。さらに、小田中直樹氏の著書『歴史学のアポリア』への批判および補論の中で、歴史学の(物語り論的)基本構造について紹介・考察し、またパトリック・ギアリの「ネイション」論をはじめ海外の動向をもふまえつつ、現代社会の中における自らの研究の位置づけをも述べた。
すべて 2004
すべて 雑誌論文 (6件)
中世ヨーロッパを生きる(甚野・堀越編)(東京大学出版会)
ページ: 15-33
史料が語る中世ヨーロッパ(國方・直江編)(刀水書房)
ページ: 163-178
西洋史研究 新輯33号
ページ: 157-167
To live in Medieval Europe(JiINNO and HORIKOSHI(eds.))(Tokyodaigakusyuppankai)
Medieval Europe told in the Sources(KUNIKATA and NAOE(eds.))(Tosuisyobo)
Seiyoshikenkyu new series, 33