研究概要 |
免罪符(贖宥状)に見られる修道院やフラタニティと世俗を結ぶ宗教社会的ネットワークを明らかにすることが本研究の目的であるが、今年度は、その基礎史料収集とケーススタディーを行い、研究方向性を検討した。第一に、英国公文書館、大英図書館、ノース・ヨークシャ文書館所蔵の免罪符史料のカタログ調査を行い、必要な史料をコピー等で取り寄せると共に史料の一部を、図像データ化した。第二に、ヨークシャー、ネアズバラの聖ロバート修道院が15世紀から16世紀初めに発給した免罪符8通(ノース・ヨークシャ・アーカイブズ所蔵)を用いたケーススタディを行った。免罪符の受給者の調査、家系の歴史、修道院との関係(地域的・人的関係、パトロン関係等)を明らかにした。その結果、家系の危機や岐路にあわせて、修道院との宗教社会的ネットワークを強め確認する目的で贖宥状が発給されていることが確認された。第三に、上記ケーススタディの成果を、国際中世学会議(リーズ大学、2003年7月)で口頭報告した(司会、ケンブリッジ大学名誉教授、ヨーク大学中世学研究センター、バリー・ドブソン氏)。また、会議を利用して、文書館関係者に関連史料収集の協力を仰ぐと共に、研究方針につき、ドイツやイタリアの国際的な研究者との討議交流を図った。また会議前後に、インターネットによるカタログ調査では手の届かなかった部分を、直接文書館に赴き史料所在調査を行った。第四に、ケーススタディ報告を英文報告書"Indulgences and Gentry in the Fifteenth-Century England",in What Do the 'Medieval Documents' Reflect II : Summarized Proceedings of the Session 1009,the International Medieval Congress, Leeds,2003,eds. by Richard Barrie Dobson and Hirokazu Tsurushima, Kumamoto University,2003,pp 17-26.にまとめ、イギリス、アメリカ、オーストラリア、イタリアのイギリス中世後期史研究者に送った。それに対する意見交換をメールなどで行いつつある。
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