本研究が年度途中の10月に採択されて以降まず、多文化主義(マルティカルチュラリズム)に関する理論の研究動向を探るため、代表的かつ基本的な文献資料の収集と批判検討に着手した。すでに、北米(加・米・墨)とヨーロッパ連合における多文化状況の史的展開・社会運動・法的規定と政策・実態をめぐる比較分析を開始していた。 本研究の主たる目的は、国民国家のこれまでの統合様式とは異なる、より豊かで創造的な人間-社会関係の実現が可能となるために、メキシコにおいて民族間関係・ジェンダー関係をめぐりいかなる多文化主義的理論と具体策が模索され、いかなる成果をあげつつあるかを調査し、その積極的展望と問題点を明らかにすることにある。そこで、平成16年2月23日〜同年3月10日の2週間余にかけて、メキシコにおける現地調査と資料収集を行った。先住民のための公共政策の立案と実施を担当する政府機関「先住民族発展のための全国振興機構」(CDI)が(50年余存続してきた「全国先住民庁」(INI)を解体したうえで)2003年7月に新たに創設されたことに鑑み、その活動内容視察および政策担当レベルの官僚・研究者陣との面談を願い出たところ、CDI総局長ソチル・ガルベス氏より、当機構が推進中の各種計画および企画プロジェクトを実際に見聞できるよう訪問を招聘された。その計らいにより、政策立案・調査研究・事業評価の各部門の責任者に対するインタビューを行うことができた。他方、国立人類学歴史学研究所(INAH)ケレタロ州支部の支部長はじめケレタロ大学の人類学・社会学者との研究会をもち、エスノポリティクス(先住民自治)とマルティカルチュラリズムに拠って立つ民主化運動の最新状況、共同体にみられる先住民の権利回復を目指す新プロジェクト出現の実態、政府の先住民支援政策の過去20年間における変容等についての情報を収集した。同時に、これら研究者主催・CDI後援によるケレタロ州オトミー先住民運動団体の代表者のための学習会に参加し、先住民運動のリーダーに対するインタビューを行った。
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