今年度当初は、平成16年2月から3月にかけての2週間余にメキシコで行ったインタビュー調査の分析、および収集した文献資料に基づく先住民族の諸権利と自治に関する理論と展開・実態の把握に携わった。文献研究を通し継続して取り組んでいるテーマとして、エスニック・アイデンティティと文化政策、ジェンダーからみた多文化主義、グローバリゼーションの時代における文化と社会変容(とくに移民の状況)などを挙げることができる。その成果の一部が次頁に記載した論文2本である。 平成16年7月から8月にかけての3週間、「先住民族の発展のための全国振興機構」(CDI)を再訪し、主要3部門のひとつである企画・諮問部門代表者、ならびに先住民族能力開発部長と同部研究員(先住民女性のための研修講座・国際会議担当)に対する聞き取り調査を行ったほか、メキシコ中部ケレタロ州のオトミー先住民族で、CDIの全国諮問会議メンバーである人物に対し、共同体での新たな経済活動(エコツーリズムの試み)の展開や7月に開催された第一回諮問会議の成果に関する証言を得た。さらに、メキシコ在住30年のドイツ人人類学者の仲介によって、中北部のサン・ルイス・ポトシ州サンタ・マリア・アカプルコ村でのフィールドワークを実施した。雨量の少ない山間部に位置しており農耕では生計が成り立たないため、米国への移民を従来多く排出している共同体におけるジェンダーの問題を調査した。 これまでの二度の現地調査をもとに、メキシコにおける(1)インディヘニスモの起源と発展、(2)国立先住民庁(INI)事業の反省に立脚したCDIの施策と地方分権化の中での活動状況、(3)開発政策としての新自由主義的政策に対する先住民組織の抵抗運動と民間活力とのパートナーシップ成功例、(4)CDI-NGO-先住民共同体との連携(例:移民の仕送り送金をもとにした自治体基金の創設とその用途・活用方法提起、運用)を中心に概要をまとめた。その一部は近く、日本国際協力機構(JICA)より刊行される予定である。
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