研究の総括を行うべき本年度は、「人種」「民族」「階級」の概念で切り離して捉えられてきた先住民族の諸問題を、ジェンダーを連結環として結びつけ、国民国家・福祉国家のあるべき姿を考察するとともに、西洋文明中心的な理念や制度を自明の前提とする国民統合ではない、公的領域における文化の複数性の実現をめぐって、メキシコ社会の場合いかなる道をとりうるのか、検討を行う段階として位置づけた。 平成17年9月、先住民政策を主導する政府省庁「先住民族発展のための全国振興機構」(CDI)を、平成16年2月と平成16年8月に続いて訪問し、政策企画部、先住民族参画・諮問部、能力開発部を中心に専門職員と面談し、殊に過去一年間の活動に関する聴取を行い、一連の資料提供を受け、それらを読破し分析する一方で、ケレタロおよびグアナフアト各州の村落において、増大する米国への移民の影響と地元に残った女性たちの組織的生産活動について実地調査を行った。女性だけで自主的に縫製工場などのマキラドーラを運営するエンパワーメントの実態を見聞した。 一方、文献およびインターネット配信ニュースを通じて、米国におけるヒスパニック系不法移民の連帯、メキシコ移民のあいだでの母国における参政権要求運動等についての最新動向を追い続けることにより、グローバル化のもとでの人権と市民権をめぐる問題を検討してきた。 これらの成果は、多文化共生型の社会構築を避けられないと考えられる日本社会の近い将来像を展望するうえでも有益な示唆を含んでおり、喫緊の課題と認識されている男女共同参画社会の形成、定住外国人に対する権利保障の問題等にいかに活かせるのかといった考察を進めているところである。
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