当研究代表者は、昨年度までアメリカ・ポピュリズムの基本綱領であるオマハ綱領の土地綱目の歴史的起源を追究してきたが、一定の成果を得たので、今年度よりオマハ綱領の今一つの基本綱目である金融綱目の歴史的起源の究明に着手した。周知のように、オマハ綱領金融綱目では、国家による通貨管理、国家による農民への融資、銀貨の無制限鋳造(フリーシルヴァー)などの要求が提起されている。このような国家による通貨・金融管理の思想は、19世紀アメリカにおいては、民衆はジェファソン的「小さな政府論」の影響を受けて、国家を忌避ないし、国家との間に距離をとったとする通説に背馳するものである。ここにはアメリカ特有の民衆の国家観が潜んでいるものと思われる。 この民衆的国家観は、以前の研究で明らかにした民衆的「土地改革」要求と同じく、南北戦争前のアメリカ労働者の運動に端を発したことが知られている。それがどのようにして南北戦争の時代の中で新たな意味を帯び、さらには南北戦争後の労働者や農民の運動にどのように継受され、ついにはポピュリスト・オマハ綱領にその場所を見い出したかといったことについて、一次史料に基づいて究明を進めつつある。 今年度は、アメリカ合衆国ウィスコンシン州のウィスコンシン歴史学協会図書館において、グレンジャー運動の側が通貨・金融問題をどのように捉えていたのかについて史料調査を行った。その結果については現在分析中である。 本年度は、一方で、巨視的な視野からポピュリズムを捉えるために、アメリカにおいて国家とコミュニティの関わりをいかに考えるかについて、書評「古矢旬著『アメリカニズム』」、書評「川島浩平『都市コミュニティと階級・エスニシティ』」などで試論的提起を行った。
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