研究概要 |
本研究代表者は、平成15年度より「アメリカ・ポピュリズムとグリーンバッキズム」という研究テーマのもとに、アメリカ・ポピュリズムの基本綱領である「オマハ綱領」に盛られた土地、金融・通貨、運輸・交通の三大経済項目のうち、金融・通貨項目の歴史的源泉を解明する作業に取り組んできた。 まず、論文「ポピュリズムとグリーンバッキズムーグリーンバッキズムの父エドワード・ケロッグーアメリカ・ポピュリズムの歴史的源泉-その(2)の1-」において、オマハ綱領金融・通貨項目の中心的構想である「財務省支国庫」プランの原型が、南北戦争前の社会評論家ケロッグの「国民安全基金」構想にあるという見通しをえた。 次いで、ケロッグの構造が世紀末のポピュリストの運動に継受されていった経路を具体的明らかにする作業に取り組む一方で、19世紀末-20世紀初頭のアメリカを代表する歴史家であり、思想家であったブルックス・アダムズとその兄ヘンリー・アダムズが金融・通貨政策に関してフリー・シルバー(銀貨無制限鋳造の要求)を支持した背景を探り,その意図が民衆による革命を回避するための手段として位置づけられていた次第を明らかにし、論文「ブルックス・アダムズの膨張思想-その構造と意味-」として公表した。 最終年次の平成18年度においては、引き続きケッログの構想と南北戦争後のグレンジャー運動やグリーンバック運動、「労働騎士団」の金融・通貨政策構想との関連を解明する作業に取り組んだ。その成果の一部は、「アメリカ・ポピュリズムとグリーンバッキズム-19世紀アメリカの民衆と貨幣-」(平成15年度〜平成18年度科学研究費補助金(基板研究(B))(研究代表者 関西学院大学文学部教授 田中きく代)研究成果報告書『西洋史の諸相における文化的ボーダーランドとマージナリティ』所収)として公表した。一方、アメリカ・ポピュリズムとグリーンバッキズムに関する知見を活かして、南北戦争後の農民や労働者の世界を映し出す社会史史料の紹介と翻訳を『原典アメリカ史社会史史料集』において行い、佐々木隆・大井浩二編『都市産業社会の到来1860年代-1910年代』、有賀夏紀・能登路雅子編『アメリカの世紀1920年代-1950年代』を書評した。
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