本研究は、近代ヨーロッパの聖俗両面において歴史の推進力を果たしてきた宗教の役割を、特に17末から19世紀初頭にかけてのプロテスタントの国際的情報ネットワークに焦点をしぼって検討することが目的である。本研究の前提としてイギリスとイタリアのプロテスタント関係に限定して論じた『ヴァルド派の谷へ』を、平成15年5月に出版したが、書評や読書会において、多くの研究者たちからプロテスタント・ネットワーク論についての意見を得ることができた。そして得られた知見を参考に、本年度は8月15日から9月16日までの期間に、国際的情報ネットワークの実態をより詳細に明らかにするために、イギリス(北アイルランドを含む)、ドイツ、フランス、イタリアの文書館においてさらに一層多くの事例を発掘するように努めた。その際にプロテスタント勢力圏の体制教会の記録、特に書簡や教会決議、および、体制教会の財政の支出先などを調査して、ローマ・カトリックが優勢であったヨーロッパ北東部のプロテスタントたちのために資金が使われた項目があるか、またプロテスタントの銀行家の名前など挙げられていないか調査した。また、寛容問題に関連する書簡やパンフレットを多く読むことに努めた。本研究の中間報告として、夏の調査の結果は、12月イギリス・アバディーンにおいて開催されたウィリアム三世学会において発表をおこない、満足するような反響をえた。また、その発表原稿は、オランダの歴史雑誌Transparantに掲載される予定だが(平成16年2月刊行予定)、さらに、加筆したものが英語圏における宗教史においてもっとも権威があるとされるJournal of Ecclesiastical Historyへの掲載が決まっている。
|