本研究は昨年度に引き続き、近代ヨーロッパの聖俗両面において歴史の推進力を果たしてきた宗教の役割を、特に17世紀末から19世紀初頭にかけてのプロテスタントの国際的情報ネットワークに焦点を絞って、検討を行った。対象となるネットワークの拠点は、イングランド、アイルランド、スコットランドからリトアニア、ドイツ、スイス、トランシルヴァニアとヨーロッパ北部全域にわたって、それぞれの地域における研究者との情報交換や研究会において知見を得る努力を積極的に行なった。7月30日から9月23日にかけて、リトアニア、イギリス、ドイツ、ルーマニアにおいて、研究者たちとの情報交換と史料収集をおこなったが、特にドイツ・ブランデンブルク地方とルーマニア・トランシルヴァニア地方において大きな成果をあげることができた。18世紀初頭に宗教的迫害をうけたトランシルヴァニア人が、ドイツのハレやベルリンのプロテスタントから情報を得て、イギリスに義損金申請を行なったこと、またその際の義損金がイギリスにおけるユグノーのネットワークを通して、貯蓄され、19世紀までトランシルヴァニアのプロテスタントたちのために援助を続けたことが、具体的に判明したのは、研究上の大きな前進である。 これらの成果の一部は、オランダの歴史雑誌Transparantに蘭訳されたほか、3月には京都大学で行なわれた「近世中・東欧における地域とアンデンティティ」国際シンポジウムおよび12月に京都において行なわれた近代社会史研究会190回例会において発表した。また、「フロンティアのプロテスタントたち-近世バルト海地方の宗派的ネットワーク-」という題の論文として、『中央ヨーロッパの可能性』(昭和堂、2005年刊行予定)に収録されることが決まっている。
|