本研究課題である「シュメールにおける統一王権と都市支配者」の前提になる前三千年紀の王権の発展とシュメールにおける王権観について、これまでの研究をまとめ、『メソポタミアの王・神・世界観-シュメール人の王権観」と題して出版した(山川出版社2003.10.)。 本年度は、ウル第三王朝時代におけるウルの中央王権と支配下諸都市の関係を明らかにする目的で、ラガシュとウンマの行政経済文書から、各々の都市における組織構成を再検討した。その成果の一端を、論文「ウル第三王朝時代ウンマにおけるエンシとシャブラ」にまとめ、『オリエント』第46巻第1号(2003.9.)に発表した。この論文では、ウンマにおける都市支配者エンシと神殿の長であるシャブラとの関係を隣接都市ラガシュとの比較を試みながら論じた。その結論部分だけを再録する。「(ウルの)中央集権的な圧力の中で、シュメールの諸都市は、それを受け入れながらも、それぞれの都市に適合した自立的な道を摸索していたと言える。とりわけ、エンシはウル王の代官的な地位にありながらも、それぞれの都市においてその制度的特殊性に合致させつつ勢力を扶植する努力を払っていたと考えることができる。そのなかで、神殿のシャブラはエンシに対抗する勢力にはなりえず、その配下として、ラガシュにおいては行政的に、ウンマにおいては神殿運営という限られた分野での責任者になっていたのである。」 史料となるウンマの行政経済文書の書式や会計簿としての特徴の検討作業では、『オリエント』誌上をかりて短報として順次発表している。さらに公刊された行政経済文書の誤りを訂正することも、欧文Orient誌に掲載される予定である。
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