本研究は、ドイツ前近代職人と政治制度、とりわけツンフト制度との絡みを追究したものである。具体的には、以下のような成果があげられた。 1)職人組合成立論に政治的要因を唱えるシュルツ説は誤りである。というのも、両者の間に相関関係はみられないからである。それよりも、人口減少に伴う労働力の流動化、それをサポートする職人仲間のしきたり(いわゆるシェンク)の誕生、高賃金を求めての団結が決定的であった。 2)近世公権力の形成に伴い、職人たちは取締りの対象となり、公権力の介入に対するリアクションが顕著となる。それは、いわゆる「手工業の名誉」を手工業者が主張することによって、パッシヴなものからアクティヴなものとなっていった。手工業の名誉とは、窃盗などの軽犯罪を犯さないこと、賤民と接触しないこと、規約を守り真面目に労働すること、他人を罵らないことを意味した。しかし、公権力からは節度ある飲酒、きちんとした服装、神への敬愛が職人に求められた。これらのカタログが完成するのは、16世紀をとおしてである。
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