研究課題
基盤研究(C)
本研究では、ナポレオン1世の独裁体制に対するフランス国民の世論の動向を解明するために、ナポレオンが1806年末以降実施した大陸封鎖政策に対する商工業ブルジョワの態度や反応を中心に考察した。分析対象としてノルマンディの商工業中心地ルーアン(及び付随的にその外港ル・アーヴル)、南西部の海外貿易中心地ボルドー、アルザスの内陸商業中心地ストラスブールと綿工業都市ミュルーズを選び、ナポレオン期(1800-14年)を通しての各都市の商工業活動の推移と、商人及び工業家の動向を詳細に検討し直した。その結果ルーアンとミュルーズに関しては、1800-06年の綿工業生産の回復期、1807-10年の発展期、1811-14年の収縮期が識別され、大陸封鎖の後半期には綿工業活動は全般的不振に陥ったことを明確にできた。特にルーアンでは、ナポレオンによって開かれた大陸内市場を利用しえなかったために大陸封鎖に対する商工業関係者の不満が次第に醸成されたことを確認することができた。以上の綿工業生産の3つの局面は、大陸封鎖期にフランス帝国の輸出入商品集散地として意義を増したストラスブールの商業活動の動態とも一致することが判明した。そこでは、封鎖を突破しての非合法貿易が拡大する一方で、政府の通商政策に対する商工業関係者の苦情や反対が繰り返し表明された。一方ボルドーでは、18世紀の植民地貿易の繁栄は失われたが、貿易商人はナポレオン期にイギリスの海上封鎖の下で中立国船の利用や特許状貿易、さらには米国などへの活動拠点の移転によって、新たな状況に積極的に対応しつつ、海外貿易の利益を一定程度享受し続けた。しかし、ボルドーの場合を含めて、1810-11年の経済危機は商工業活動の長期不況をもたらし、これを機にナポレオン体制に対する商工業ブルジョワの不満が急速に強まった。それ故反ナポレオン感情の全般的高まりは帝政の末期に限られるとの見通しを得た。
すべて 2004
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ヨーロッパ統合の理念と軌跡(紀平英作編) (所収)
ページ: 151-191
The Idea of European Integration and its Evolution in Historical perspective (Kihira Eisaku, ed.)