研究概要 |
本研究の目的は、国民国家単位での統合が進行しつつあった19世紀のヨーロッパで、食文化が統合のベクトルとドイツのように関係していたのか、国民・地域社会・階層などそれぞれのレベルのアイデンティティーが食に関する言説を通じてどのように展開されていったのか、を解明することである。そのため、まずヨーロッパにおけるこうした研究があるかどうか、研究史を探ってみた。それに合致した研究書として、「ヨーロッパ食生活史研究のための国際委員会」という、国際的な研究者グループが編集した『食物・飲料とアイデンティティー-中世以降のヨーロッパにおける調理と飲食』(P.Scholliers, ed.,Food, Drink and Identity, Berg,2001)という業績がある。そこで、まずこの研究書の内容を検討するとともに、このグループに属する各国の研究者たちの研究活動に注目することとした。そのため、2003年9月末から10月初頭に開催された、同グループの国際シンポジウムに参加した。このシンポジウムは、食に関する知識の伝播と拡散、すなわち広義での食文化教育をテーマとするものであったが、こうした諸研究は、ヨーロッパ各国における食を軸にした国民国家のアイデンティティー形成という問題と深く関わり合うため、本研究にとって大きな示唆をえるものとなった。この海外での資料収集の成果は、大阪国際大学国際関係研究所の『国際研究論叢』第17巻2号に報告として収録されている。このほかに、イギリスに限定した研究として、『帝国の果実-異国の産物とイギリス的味覚』(J.Walvin, Fruits of Empire, London,1997)という研究書がある。この本は、イギリス帝国とイギリス人の食文化のアイデンティティーとの密接なかかわりを歴史的にあとづけた研究であり、やはり『国際研究論叢』においてこの本を翻訳紹介してみた。こうした研究を次年度も継続していく。
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