本研究の目的は、国民国家単位での統合が進行しつつあった19世紀のヨーロッパにおいて、食文化が、その統合のベクトルにどのように関係していたのかを解明することである。2年目にあたる平成16年度は、昨年度の研究に引き続き、ヨーロッパにおける食文化研究の進展に着目し、昨年度紹介した「ヨーロッパ食生活史研究のための国際委員会」と並んで、国際的・学術的な研究組織として重要な「食民族学研究のための国際委員会」に着目した。この組織は2004年9月末から10月初頭に、クロアチアのドブロブニクで「地中海食文化の世界的広がり」というテーマで第15回目の国際シンポジウムを開催した。それに参加し、日本から地中海食文化を考察する研究発表をおこなうとともに、特にヨーロッパの北側の国々への地中海食文化の浸透に関するいくつかの発表を聞いたが、これは、ヨーロッパ内外から食とアイデンティティーの問題を考察する良い機会となった。 また今年度、食文化研究という学際的な広がりの諸研究を総合し整理する意味で、森枝卓士氏(食文化研究家)と一緒に『新・食文化入門』(弘文堂、2004年10月)という書物を編集し、その中で「第4章:食から見た世界史」を執筆した。ここで改めて近代ヨーロッパの歴史と食とが密接に結びついていることについて確認した。同時に、食と国民的アイデンティティー形成の問題を、日本の側から考察する試みとして、「日本における西洋の食文化導入の歴史」というタイトルの試論的研究を、大阪国際大学国際関係研究所編集『国際研究論叢』に投稿し、掲載された。
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