研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は、食文化の歴史を材料として、工業化や都市化、国民国家統合、ナショナリズムの強化といった、近代ヨーロッパ社会の諸問題を新たな視点から解明することであった。その際、とくに食という日常生活レベルでの視点から、近代国民国家への統合の動きをみるという課題をかかげ、政治・経済・社会など幅広い問題を取り扱うよう心がけた。研究の資史料としては、食生活に関する諸史料、とくに同時代の料理書などの一次史料、およびさまざまな二次的な研究文献を利用した。また、2003年と2005年には、それぞれプラハとベルリンで開催された「ヨーロッパ食生活史研究のための国際委員会」の国際シンポジウムに参加し、ヨーロッパの食生活史研究の最前線にいるヨーロッパ各国の研究者から情報を収集した。食文化は、人間社会・歴史の広範囲な問題とかかわるので、本研究においては、まず工業化と都市化という19世紀ヨーロッパ社会史の底流の中で、食の問題がどのような問題とかかわるのかを検討し、とくに食品偽装問題や食品流通への法的・行政的な監視システムの構築について検討した。次に、こうした食品監視システムの成立の前提となる食の科学化の進展を、栄養学や食品化学の成立という視点からたどり、同時にこうした科学化に対する反発としての「反近代」的な言説の強化にも注意を向けた。次に、本研究のメインテーマである近代国民国家と食との関係について検討し、栄養学や栄養教育が労働者層などの国民国家への統合に利用されていくプロセスを、言説および制度面から跡づけた。さらにいくつかの小国について、料理書が国民国家レベルでのアイデンティティ形成に大きな役割を演じたことを例証した。全体として、食文化が国民国家レベルの統合と密接に関係していることが示されたと思われる。
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関学西洋史論集 29号
ページ: 51-60
Kangaku-Seiyoushironshu (Journal of Western History) No.29
大阪国際大学紀要 国際研究論叢 17巻3号
ページ: 65-76
OIU Journal of International Studies Vol.18, No.1