研究概要 |
今年度は、友愛組合と1911年国民保険法との関係を分析することを主たる課題とし、実証的な資料調査と、理論的な検討を行った。 資料調査については、Ancient 0rders of Foresters友愛組合、全国貯蓄友愛組合、ハンプシャー友愛組合の資料を、大英図書館とハンプシャー公文書館で調査した。その結果、(1)友愛組合は当初強力な競争相手としての国民保険の導入に強い危機感を抱いていたが、その計画の中で自らが「認可組合」として国民保険の執行機関として位置づけられるに及んで態度を軟化させ、国民保険と任意相互保険の相互補完性を認識するようになったこと、(2)国民保険の執行過程への友愛組合の参加は外見上の「繁栄」をもたらすが、それは国家依存の「繁栄」であり、他面では友愛組合内の国家保険部門の拡大とヴォランタリー部門の縮小というパラドックスと新たな負担を生み出したこと、(3)国家保険の拡大は保険医の立場を強化(高給化)し、友愛組合を支えていた安価な医療を不可能にするという負の効果をもたらしたこと、この3点を明らかにした。この資料調査の成果の一部は、2003年6月の社会経済史学会全国大会(東京経済大学)、12月のイギリス近代生活史研究会(京都大学)で報告した。ただ、当初年度内に執筆予定であった論文は刊行できなかった。来年度の課題としたい。また、来年度に向け労働組合関係のマイクロフィルム資料を購入し、調査を進めている。 他方、理論的な研究については、文献整理、国内調査に基づいて、個と相互扶助、あるいは個と共同性に関する方法論的な整理をおこなった。一言で言えば、個や相互扶助が歴史実態として論証されておらず、歴史の方法にもとづいた新たな分析方法の必要性を提起した。その成果の一部は、オックスフォード大学との市民社会合同セミナー(2003年3月)とその後の記録(Jose Harris ed. Civil Society in British History, Oxford University Press, 2004)や、2003年11月の西洋史研究会年次大会報告(青山学院大学)、書評に表れている。
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