研究課題
基盤研究(C)
本申請研究の課題は、イギリスにおいて労働組合、友愛組合、協同組合が1908年老齢年金法と1911年国民保険法にどのように対応したか、またそれらの法律は相互扶助組織にどのような反作用を与えたかを検討することで、近代イギリスの福祉における個と共同性の関係史を描くことにあった。分析の結果、次の5点の結論を得た。(1)労働組合、友愛組合とも、当初は自らと競合相手となり、「自助」の原則とも対立する国家の年金や保険制度には反対であったが、それが自らの制度と補完的な関係にあることを認識するに及んで、賛成の立場に移った。(2)その理由は、両者が年金委員会の代表や「認可組合」として国家福祉行政に参加できることが保証されたこと、民間の相互扶助と国家的な相互扶助がアナロジカルな関係にあると認識したこと、さらにドイツ的な官僚的保険でなく、イギリス的な「自由主義」的な保険であったこと、にある。(3)国家の側からすると、「認可組合」に権限委譲することで、国家の行政負担を大幅に削減したばかりか、中間団体を国家体制へ動員することで、帝国主義段階に応じた国家体制の再編を可能にした。ここに「小さな政府」の強さの秘密があった。(4)国家保険の成立後は、労働組合、友愛組合ともに国家保険の担い手として組織的には拡大したが、他方で国家への従属が促進され、ボランタリな自助組織としての本来的性格を後退させた。量的な拡大と質的な衰退のパラドックスに陥った。(5)国際比較という視点からすると、イギリスが相互扶助という横のつながりを基礎として国家保険をつくったのに対して、日本は相互扶助、企業福祉、国家福祉、いずれの面でも家族主義的が濃厚であった。イギリスでは、中間集団の強固さと持続性が、個と共同性の関係史における独自性を刻印することになる。以上の成果を、第20回国際歴史学会で報告し、英文報告集にその要点をまとめた。
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歴史学辞典 第4巻
Dictionary of History vol.4
Essential Study on Modern British Women History(Kawamura, Imai ed.)(Tokyo)
ページ: 204-205, 221-235
The Proceedings of the 20th International Congress Historical Science
ページ: ST21,1-23
The Proceedings of the 20th International Congress Historical Science ST.21(CD version)
ページ: 1-23