日本の古代国家形成期にあたる古墳時代墳墓の特徴は、墳形と規模の両面で、常に大きな格差が存在することである。本研究は、小規模墳に着目することで、古墳時代の政治構造や社会構造を、新たな側面から明らかにしようとするものである。 この課題を検討するための基礎的作業として、地域内部における小規模墳の具体的様相を明らかにし、大型古墳との階層的関係や、小規模墳の造営基盤などを検討しておく必要がある。東北地方南部を対象にケーススタディを行い、その一環として宮城県台町古墳群の測量調査を実施し検討材料とした。これを踏まえて、各地の事例と比較検討した。 古墳時代中期に一時的に低調になるものの、それ以外の時期には小規模墳が、各地で活発に築造される。その分布状況から見て、小規模墳は1〜数ヶ所程度の集落から形成される、さほど広くない日常的な農業生産の単位となる共同社会を基盤として築造されていることが明らかとなった。このような小規模墳の分布に対応する共同社会が、古墳時代社会を構成する基本的な単位と考えられる。 古墳時代の開始にあたって、各地で小規模墳が広範に築造され、それを複数統合する形で、中規模以上の古墳が築造されている。このことから、古墳時代の政治的結合の形成にあたって、小規模墳に埋葬された階層の広範な参与が不可欠であったことを示している。小規模墳の存在形態は、中期後半以降に変化していくが、その造営基盤に本質的変化を見出すことはできない。小規模墳に埋葬された階層を、政治的に編成する構造の変化と考えられる。これらの検討結果から、古墳時代の墳墓に表現された階層的政治関係の形成にあたって、小規模墳に埋葬された階層の動向が、重要な位置を占めていると考えられることが明らかとなった。
|