今年度は、石器の使用痕分析の方法論的な基礎的研究に重点を置いた。刃部に残された使用痕の観察方法の標準化と、検出された微細使用痕の属性の記載、分析と同定の共通基準の検討をすすめた。国内における石器使用痕分析の連絡研究組織である「石器使用痕研究会」と連携し、各種の加工対象物と作業方法で複製石器を使用する実験に参加する中で、生成した使用痕の分類方式や記述の方法について討議し、主要な使用痕カテゴリーである微小剥離痕、線状痕、摩耗光沢などの標準的な記載と同定法を検討した。使用実験に際しての条件等と結果記録の標準化と、出土石器に検出される使用痕の変異との対比方法をさらに検討した。東北大学考古学研究室で従来蓄積してきた使用痕資料の内容を、多くの研究者の共通基準とするための基礎的な画像研究をすすめた。配分予算の関係上、2年度目に分割した主要設備である工業用顕微鏡の付属部品を設置し、それにより複数の観察者が同一の微細部分を検討する方法を含む。顕微鏡による観察画像のデジタル方式による記録・分析方法の検討をすすめた。また、本研究課題の中心である、遺跡構造論的な後期旧石器の機能の技術的組織研究のための、調査候補遺跡の踏査を実施した。岩手県胆沢町教育委員会と、岩手県域の旧石器遺跡調査の関係研究者の協力を得て、後期旧石器時代前半の上萩森遺跡の現状と堆積層序、石器出土層位の確認を行った。東北大学考古学研究室において、同遺跡出土資料の使用痕観察を行った。
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