継続課題3年目である今年度の研究は、方法論の応用のための遺跡調査に重点を置いた。「技術的組織論」という観点から、実際の出土遺物に対して石器使用痕分析法をどのように応用可能か、検証する資料確保を目的として上萩森(西)遺跡の発掘調査を実施した。岩手県胆沢町若柳に所在する、扇状地扇頂部の後期旧石器時代前半の遺跡である。1977年に発掘され研究史上重要な上萩森遺跡の西方別地点で、層序対応と現状を確認し9月に調査した。胆沢町教委による1992年の調査でペン先形ナイフが出土した地点の周辺において、14カ所の試掘グリッドを調査した。しかし、当該期の安定したローム層堆積は確認できたが、旧石器の出土は無いという結果であり、遺跡の中心部分は東側にあって既に削平されたものと推定された。胆沢町教委の協力を得て、92年度の調査資料71点の研究を行うことができた。また、国内における石器使用痕分析の連絡研究組織である「石器使用痕研究会」との連携は今年度も継続して行った。複製石器での条件統制した使用実験結果を共通基準化する共同研究に参画し、使用痕の記載方法、分類の標準化、同定の客観化に向けて検討した。本研究課題で進めている石器の機能復元の標準化は、東北大学考古学研究室で従来蓄積してきた実験石器資料刃部に認められる使用痕に基づくが、同研究会で進行中の共同研究結果との比較を行い、摩耗光沢と線状痕を中心に観察と判定の国内共通基準作成に向けてすすめた。
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