本研究課題最終年度である今年度の研究は、全体のまとめに重点を置いた。「技術的組織論」という観点から、実際の出土遺物に認められる使用痕の多様性をどのように理解できるか、一連の実験資料観察データの整理、および細石刃文化期の新潟県荒屋遺跡などの使用痕観察との対比の結果をもとに、問題点の整理を行った。東北大学の複製石器実験について、従来蓄積した石器資料を整理し直し、実験記録のデータベース化を進めた。使用痕解釈基準の標準化のため、観察方法、記録方法、微細摩耗光沢の状況などについて、整理した。具体的には、チャート製実験石器に認められる光沢の分類と認定について、既撮影のスライドをデジタルデータ化して、画像の特徴認識を研究者間で標準化するための作業を行なった。そのため、高精度高速のフィルムスキャナーを購入した。使用痕分析の基準を研究者間で共通化するために、今年度もこの分野の研究者の全国連絡組織である「石器使用痕研究会」における石器使用実験共同研究に参加し、観察と記録、判定の標準化作業と連携した。研究代表者は、3月24日、25日に同研究会総会で、この問題について東北大学チームと同研究会の共同研究との関連を含めて、「石器使用痕の解釈基準をめぐって」の題目で研究発表を行い、相互検討を進めた。また、応用面においては、昨年度実施した岩手県奥州市胆沢区上萩森遺跡の、後期旧石器時代前半の試掘調査と旧胆沢町発掘資料の分析について、調査報告を作成した。
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