日本列島では後期旧石器時代前半期に局部磨製石斧が多く出土する。後期旧石器時代において磨製技術を用いる石器は、オーストラリアと日本だけであり、世界的にも珍しい。なぜ大陸の多くの旧石器遺跡において局部磨製石斧が出土しないのか、また日本列島においてなぜ後期旧石器前半期にだけこの石斧が多く見られるのか、解決すべき問題は多い。 本研究ではこの局部磨製石斧の用途について、実験的手法を用いながら考察した。石器の使用痕研究はこれまで高倍率の金属顕微鏡での観察によって、その使用対象を特定するという研究が進展してきた。しかしながら、石斧は軟質石材を用いること、刃部を何回も磨いてしまい使用痕が消えること、黒曜石・チャート・頁岩など硬質石材の使用痕研究が中心だったこと、などから進展が遅れていた。近年、ようやく当該期の石斧の使用痕観察例が報告されるようになってきた。本研究では研究代表者の研究環境の問題もあり、低倍率の実体顕微鏡による実験石斧の刃部観察を行った。出土石斧の観察例はいまだ少ないが、使用痕がまったく認められない例もあり課題となった。 この結果、動物の解体を想定した関節をはずす作業と木材加工(伐採ではなく木材の加工実験を実施した)では刃部の線条痕と微細剥離痕に若干の違いが認められた。これは対象物の硬度差(関節部と木材)によるものと思われるが、木材を対象とした実験では対象とした材種・材の部位によって微細剥離痕に違いも認められ、明確な結論を出すためには今少し対象実験例を増やす必要があろう。
|