アイヌが海洋へ適応した集落形態や生活様式をどのように獲得し、また接触期にどのような変化が生じたかについては、生業面だけでなく、交通手段はもちろんのこと、陸獣や海獣などの送り儀礼なども加味して総合的に考察する必要がある。そこで考古学資料の分析だけではなく、博物館収蔵の民俗資料や民族誌の積極的な利用によって、特に千島アイヌと北海道アイヌ、またはサハリンアイヌとの海洋適応に関する異同を探ることを重点目標とした。 具体的には、18世紀から昭和初期にわたり遠征隊や研究者によって収集・記録され、ロシア科学アカデミー人類学民族学博物館やロシア民族学博物館に所蔵されている千島・サハリン・北海道の歴史期アイヌ文化についての資料(物質文化、古写真)を分析した。後者のアイヌ資料に関する現地調査を平成16年度に実施し、その成果は平成17年度中に発表する予定である。 また、アイヌによる生業活動、特に植物食の採取・処理・保存については、財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構の木原主事と道央部を中心に多数のアイヌから聞き取り調査を行い、実際に処理作業を行って澱粉量などの定量的なデータを記録した。その成果の一部は手塚・木原2005文献で刊行済みである。 近世期にアイヌ風俗を記した絵巻や日記から、従来あまり研究対象とされてこなかった接触期における動物儀礼などを中心とするアイヌの「日常的実践」や「ブリコラージュ的行動戦略」の特徴については、手塚・池田・三浦2005文献と手塚・舟山・三浦2005文献で論じている。
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