アイヌが世界有数の長さを誇る千島列島という島嶼部の環境へ適応した集落システムをどのように獲得し発展させていったかについては、移住手段はもちろん、海獣資源開発の技術革新や交易・情報ネットワークの存在、生態学、海洋学、気象学、地形学、地質学、火山学、局地地震性を考慮に入れる必要がある。そこで人類・考古学資料の分析だけではなく、生物資源の分布や最新の生物地理学理論の積極的な利用によって、先史から有史時代までの先住民集団による海洋適応モデルの構築を重点目標とした。 具体的には、千島列島のフィールドワークによって収集・記録され、ワシントン大学人類学部やサハリン州立郷土博物館に所蔵されている千島アイヌ文化についての資料(年代測定資料、生物・地質データ)を分析した。この成果については、平成18年2月に北海道大学総合博物館で国際セミナーを開催し、研究協力者のBen Fitzhugh(ワシントン大学人類学部助教授)氏と共同で「千島列島の人類と環境の相互作用:千島集落システムの歴史と進化における弱点と利点」という演題で研究発表を行った。また、その補足的な現地調査を平成18年度に実施し、その成果は平成19年度に発表する予定である。 また、理論化に資すると思われる、アイヌによる交易活動のパラメーターについては、アイヌ文化期低湿地遺跡の有機質遺物の移入品・自製品比に関する定量的な分析を行って概念化した。その成果は平成18年1月に大阪歴史博物館で開催された世界考古学会議で「過去千年間におよぶアイヌと和人の相互関係」という演題で単独発表した。
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