研究概要 |
島嶼部生物地理学研究の進展から、生物の島への移住とその後に続く絶滅は、想定されていた以上に頻繁に繰り返されてきたことが証明された。陸上の資源に依存する度合いの高い狩猟採集民にとって、海中の動物(魚介類や海獣)を利用できる技術を確立した海洋漁労民より島での生存のハードルは、はるかに高かった。多くの海洋資源は回遊性で余裕があり、捕獲圧に耐性がある。大きく大陸に近い島は遠い小さな島より陸上の生物種が豊富であり、それを捕食する生物にとって生存の条件は有利でもある。 筆者らによる千島列島全域を対象にした学術調査では、千島列島の全域で動・植物の分布調査が実施され、上記の事実を裏付けている。申請者はその他にも千島列島全域の国際調査に参加し、文化史と生物相にかかわるデータの収集に努めた。それらの調査で得られたヒトの居住年代資料を暦年に較正した結果、千島列島全体に及ぶ長期の居住断絶期が二回確認された(Fitzhugh, Shubin, Tezuka et al.2002)。 最近、地質・地震学者によってにわかに注目を浴びている500年周期の大津波や火山噴火などの自然災害との関連を示唆している。 考古学上の文化編年を導入して人類の千島列島移住の過程を分析することは、一定の成果を収めた(手塚2002・2004・2005、Tezuka・Fitzhugh 2004)。2006年にはNational Science Foundationの助成を受けてFitzhugh(ワシントン大)を代表とする国際調査団(KBP)に参加し、多量の年代測定資料を採取すると共に生態系の変動を評価するシュミレーションに必要な気象・地球系のデータを収集し、それらを分析した結果は、上述した居住時期の断絶に関する仮説を引き続き支持している。
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