狩猟採集社会の集落でみられる集団の空間的流動性には、紛争処理機能が備わっていると考えられてきた。本研究では、1856〜1869(安政3〜明治2)年の東蝦夷地三石場所におけるアイヌを対象として、集団の空間的流動性の程度を測定し、流動性の機能を集落内居住者間の血縁親族関係の維持という側面から検討した。その結果、集団の空間的流動性は分裂の流動性と結合の流動性に二分された。後者では流動性が高くとも分裂してこなかった家を含む集落が多く、集団の流動性は紛争処理理論のみでは説明できないことがわかった。集落の構成が流動的に変化していたにもかかわらず、集落内の家と家は親子、兄弟姉妹関係にあることが多く、つねに血縁親族関係を主体として集落が形成されていた。集団の空間的流動性には、いわば血縁共住機能が備わっていると考えられる。
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