研究概要 |
本年度は3年間の研究期間の最終年度であるため,前年度に引き続いて資料収集や調査,およびその分析を行う一方で,成果の取りまとめについても注力した。研究目的である1990年代以降の青果物輸入の増加のもとでのわが国の青果物流動体系の変貌を解明するために,以下の側面からのアプローチを試みた。 1 国内の流動パターンの変化そのものについては,野菜生産出荷統計に基づいた分析により1970年代以降のパターンを具体的に描き出した。その際,カナダの農業地理学者トラフトン教授の研究を踏まえて,Polarization現象の進行を指摘した。 2 次にわが国への青果物輸入を中心にした国際的な流動パターンについては,農畜産業振興機構のデータをもとに対日野菜輸出の地理的パターンの変化を具体的に描き出した。その結果,近年のわが国の野菜輸入においては中国産品の顕著な量的拡大がみられた。そうした中で,韓国や東南アジア産品は特定の高価格の品目に特化することで独自性を発揮していることが明らかになった。 3 さらに対日野菜輸出を行う各国の状況に関する検討も行った、例えば韓国の近年の青果物流通の実態を明らかにするとともに,日韓の比較も行った。同様の観点から,中国やインドについての例証も行い,国家間,地域間の経済格差との関わりから,共通点と相違点について考察した。 4 以上を踏まえた理論的検討についても取り組み、経済地理学会や日本地理学会などにおいて,関連するテーマでのシンポジウムなどを開催した。具体的には,1980年までに指摘された「Industrialization of Agriculture」の後の状況を把握するための理論的枠組みの検討,および農産物流通体系の再編成を議論する「商品連鎖」のアプローチの検討である。
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