研究課題
基盤研究(C)
日本における海面干拓の地域的歴史的展開過程について、戦後の複式干拓が実施、または企図された八郎潟、児島湾、有明海(諌早湾)について、単式干拓の歴史的プロセス、及び単式干拓から複式干拓に至る海面干拓データベースを構築し、干拓地での農業と干拓地農民による干潟・浅海漁業の複合的生業の持続可能性について考察した。特に、諌早湾、有明海の白石平野、及び八代海について、単式干拓地における干潟漁携の持つ意味、干拓地の持続的な土地利用としての冬季湛水田についてミクロな実証研究を行った。この結果、以下のことが明らかとなった。(1)複式干拓が実施された八郎潟、児島湾、諌早湾は、戦後のオランダの影響による大規模干拓計画が基盤にあること。これらの全てが、湾入部の締め切り後に、海水汚濁・漁業不振などの環境問題を生起したこと。さらに、八郎潟・児島湾では、農業が低迷し、農地利用率が低下していること。諌早湾では、未だに農地利用の見通しが立っていないこと。したがって、複式干拓の持続可能性については、多くの課題があること。(2)単式の干拓では、干拓地前面の干潟域は、比較的自由に利用できるオープン・アクセスの共有地で、農民による漁携が副業として重要な意味を有していた。八郎潟や児島湾では、複式干拓の導入により、干潟の共有資源から排除され、浅海漁携も水質の悪化に伴う漁業不振により衰退した。有明海沿岸では高度成長期以降、干潟での漁携が衰退し、米麦農業と海苔養殖を中心とする単一的な生業へと特化した。しかしながら、白石平野においては、今なお、日々のオカズ獲りの場として、農閑・漁閑期、あるいは潮汐のデイリー・リズムに応じた漁携が行われ、マイナー・サブシステンスとして、晦業・暮らしに組み込まれている。(3)干拓地での営農と干潟漁携、そして浅海漁業の複合的生業システームは、つい最近まで持続的システムであったが、複式干拓や埋め立てによる干潟の消失や、環境悪化による干潟水族資源の減少、さらには生業の単純化は、このような持続的な生業システムを喪失させた。しかしながら、出水平野におけるツル越冬地保護のための冬季湛水田のように、農業との調整をはかりながら湿地環境を再生する干拓地利用のあり方も、持続可能な生業システムとして評価されるであろう。
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佐賀大学有明海総合研究プロジェクト成果報告集 1
ページ: 169-172
佐賀大学地域経済研究センター調査研究報告書 20(印刷中)
地形環境と歴史景観(日下雅義 編)(古今書院) (所収)
ページ: 180-191
国絵図の世界(国絵図研究会 編)(柏書房) (所収)
ページ: 287-290
Developing Process of Reclamation and Sustainability of Multiple Subsistence : The Shiroishi-Plains (in Japanese)