サン(ブッシュマン、バサルワ)は、南アフリカ、ボツワナ、ナミビア、アンゴラに暮らす南部アフリカの先住民としてよく知られている。この研究は、サンを対象にして、各国で異なるサンの先住民運動の地域性を把握することを目的とした。サンは南部アフリカに広く暮らしているためにその全貌を把握することは困難であり、今年はボツワナのサンの先住民運動に焦点を当てた。ボツワナ政府は、サンを先住民という概念で把握しておらず、辺境居住者とみているので、世界的な運動の流れに強く影響されていない。しかし現在、海外のNGOも関与して、先住民運動といえるような動きもみられる。 筆者がこれまで長期間調査してきた中央カラハリ動物保護区において、ボツワナ政府は保護区内の居住者(サンやバンツー系カラハリ)を保護区外への移住をすすめており、それに賛成しているサンと反対しているサンとに分かれている。反対者は、自らの土地権を政府に要求しているが、政府がその権利を認めることはない。しかし、彼らが土地権を主張する際に、地名や歴史的出来事などをとおしてサンが土地に刻んだ歴史が新たに重要性を増している。 本報告では、先住民という大枠でみるのではなくてサン社会のなかに先住民運動に関与する人と関与しない人がわかれてきたプロセスとそれが分化した要因を把握している。2つの選択には、集落レヴェルでのリーダーの存在、サンとカラハリとの社会的紐帯の強弱などが左右していたことが明らかにされた。
|