近年において世界各国の先住民が、国家に対して自らが居住してきた土地に対する利用権や所有権を請求するようになっている。これは、「先住民の土地権運動」と呼ばれ、その背景には、鉱山開発や観光開発などの国家の地域開発がすすめられ、先住民の人権を考慮することなく彼らを強制的に移住させてきた点が挙げられる。この研究では、南部アフリカの先住民としてよく知られるサン(ブッシュマン)社会を対象にする。具体的には、南アフリカ、ボツワナ、ナミビア、アンゴラの4つのサン社会を事例に、そこでの彼らの先住民運動の実態、彼らの生活様式のなかでの運動の役割などを把握している。その結果、以下のようなことが明らかになった。 1.4つのサン社会において先住民運動の有無などで大きな地域的差異を認めることができる。南アフリカでは、すでに先住民が土地権を獲得しており、土地利用の仕方についての論議がみられる。ボツワナでは、先住民の政府に対する裁判が行われている最中で、その決着をみてはいない。ナミビアでは、南部アフリカ全体のサンの先住民組織の本部があることもあり、運動は活発に行われている。アンゴラでは、内戦が終了して時間がたっておらず、運動はまったく行われていない。 2.このような4つの地域の差異は、各国の先住民政策などの政治状況の違いを大きく反映しているようにみえる。しかし、個別の事例を掘り下げてみると、先住民内の意識の違いも明確に生まれており、社会内の多様性も考慮しなくてはならないことが明らかになった。
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