(A)平成15年7月5日、ハンブルグ大学で開催された第15回国際エチオピア学会において、ガブラ・ミゴのアイデンティティ選択に関する発表をした。 (B)平成16年1月23日から3月5日まで現地調査を行った。調査は自然資源(とくに水と土地)をめぐる民族間関係の把握を目的とした。 (1)水資源:ディレ地区におけるボラナの井戸利用について調査した。ディレ地区には川がほとんどなく、人々は、地下30メートルまで掘られた深井戸から水を得ている。井戸はボラナが所有する。彼らは井戸に関する文化を発達させており、個々の井戸に名前をつけ、厳密に所有者を決めている。1964年以前、ガブラ・ミゴはボラナと共に、これらの深井戸を利用していた。まず、ボラナを対象とするインタビューから、7つの町に分散する126の深井戸の名前と所有者を確定した。次にガブラ・ミゴを対象とするインタビューから、1964年以前の両民族による水利用を再構成した。 (2)土地資源:スルパ町周辺では、最近、グジによる「土地の囲い込み」が顕著である。一方、ガブラ・ミゴの放牧地は減少している。囲い込まれた土地と、ラクダの放牧ルートを計測し、グジとガブラ・ミゴの土地をめぐる潜在的対立を調査した。 (3)アイデンティティ選択にかかわる参与観察:ガブラ・ミゴは、1991年にオロモ・アイデンティティを選択したが、2001年の調査では、急激にソマリ化しつつあることが判明した。ところが今回の調査では、再びオロモを民族アイデンティティとして選択しつつあった。また、彼らの文化は、オロモ文化とソマリ文化が混交しているが、今回は、オロモ文化が強調されていた。彼らがオロモを選択した背景には、オロミア州の地方行政職に占める民族割合についての不満が解消されたことが挙げられる。政治的目的を達成するために活躍したエージェントが、オロモ文化を再興させていく行動を観察した。
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