本研究は、東アフリカ・ウガンダ共和国に住む牧畜民ドドスの人びとが自らの生活する土地を描いた認知地図を基礎資料として、地理空間の認知とその表象化の過程をGIS(地理情報システム)等のディジタル化による情報処理の手法を援用して解析し、実践空間としての土地をめぐる「知」の構築機序を解明することを目指すものである。 研究計画の初年度にあたり、初期作業として画像資料のディジタル化と既存資料のデータベース化を進めるとともに、GISを用いた解析を順次試行した。具体的には、(1)地形図(1/50000)にもとづくディジタル・ベースマップ(DEM : Digital Elevation Model)の作成、(2)認知地図のディジタル化、およびディジタイザを用いたランドマーク等のオブジェクトのトレース処理とレイヤー構造の構築、(3)地名や地形語彙、言語的・行動学的資料のデータベース化等の作業を進めた。GIS解析では、(1)ドドスランドの地形量の評価、(2)特定のランドマークからの可視域の描出およびランドマークの選択要素の評価、(3)山や丘、河川と水場、集落と家畜キャンプといったオブジェクトについて、オブジェクト同士、およびオブジェクト相互の位置関係を評価、(4)オブジェクトの形状や大きさから視座域を抽出、等を試行し、物理空間と地図表象との関係を考察した。解析は試行段階であるが、オブジェクトの配置の評価から、集落や家畜キャンプ等の「定点」と、道などの「移動」空間が、地図表象化においてきわめて対照的な現れを示し、空間認知における「方眼」ないし「罫線」の機能を示唆する一方、水場は他のオブジェクトとは独立に描かれる傾向が認められた。 これらの作業および解析の経緯と成果の部は地理情報システム学会、生態人類学会等において報告するとともに、『アジア・アフリカ言語文化研究』に原著論文として発表し、また東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所のWebサイト[http://www.aa.tufs.ac.jp/~mod/irc/gis/gis_project.html]に公開した。実践空間というアリーナに展開されるドドスの社会・文化的側面については、土地と家畜所有、および家畜保有とレイディングをめぐる隣接集団との関係についてそれぞれに考察し、書籍論文集等に執筆した。年度後半(2004年1月16日〜2月16日)にはケニアとイギリスにおいて地理資料および文献資料の収集をおこなった。
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