本研究は東アフリカ・ウガンダ共和国に住む牧畜民ドドスの人びとが自らの生活する土地を描いた認知地図を基礎資料として、地理空間の認知とその表象化の過程をGIS(地理情報システム)、GSP(氾地球測位システム)等のディジタル化による情報処理の手法を援用して解析し、実践空間としての土地をめぐる「知」の構築機序を文化人類学的に解明することを目指すものであった。 最終年度にあたる本年度は、これまでの二年間に解析してきた情報データをおもに用いて、引き続きGISのデータ解析を進めるとともに、その結果をもとにして、人びとの言説や儀礼の開催場所、家畜キャンプの位置や移動の経路等の言語、社会的、行動的なデータを加えて解析し、調査対象であったドドスの人びとの地理空間の認知の特異性、および「地図が描ける」ことや「読めること」の生成基盤について以下の可能性を検討した。 ドドスの人びとが三次元的な物理空間(地理空間)を二次元の認知地図として描くことができることの評価として、次の一点が挙げられる。すなわち、ドドスの描く地図は、通常、地図化の作業として考えられているように物理的三次元空間から次元をひとつ下げた二次元表象として平面に描かれたものでは、おそらくない。ドドスの認知空間は生活のなかで経験される一次元空間に「時間」という次元を加えた抽象空間であり、たとえていうならば、過去に身をおいた場所や通った場所を一枚一枚透明なシートに記し、そこに描かれたリニアな軌跡を重ねてできあがる二次元表象空間としてあるのではないか。ドドスの描く地図はそうした多重レイヤー空間としての認知空間が描出されたものだと考えられる。 なお、本年度に予定されていた海外調査はフィールド(ウガンダ)の政情不安等の理由にて中止した。
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