本研究の目的は、兵庫県神戸市を事例として、1970年代以降新たに中国より(留学生や労働者などの形で)日本に渡ってきた「新華僑」の社会構造(社会的ネットワーク)の特質と、そのエスニック・アイデンティティのあり方(彼らのエスニック・アイデンティティを規定する要因の検討も含む)を明らかにすることにある。 本研究で得られた知見は以下の通りである。 1.老華僑が「社会構造」(主に地縁に基づく伝統的な華僑組織)を基盤として人脈を築いていくのに対し、新華僑は「ネットワーク」(対人ネットワーク、メディアを通じてのネットワーク)を基盤としながら社会関係を築いていこうとする傾向がある。 2.90年代に入り(新華僑の社会進出・安定と期を一にして)新華僑の組織化が進められ、個を結ぶ「ネットワーク」に加え、組織的な実態=「社会構造」として新華僑社会が整備されるに至った。 3.老華僑・新華僑の組織は(新老華僑の価値観の違いなどもあり)別個の組織として運営されてきたが、近年、相互が歩み寄る兆しが見られる。これは日本において、老華僑・新華僑という「二つの華僑」社会から、両者が協力・同調しあう「一つの華僑」社会へと変化する趨勢が見られることを示している。 4.新華僑の「定住化」の進展にともない、新華僑の側から(部分的にではあるが)現地の老華僑社会と関わりを持とうとする動きが少しずつ出てきている。 5.老華僑・新華僑とも、世代が下りるにつれ中国人としてのエスニック・アイデンティティが希薄になる傾向があるが、とくに新華僑の場合、その変容(日本への同化)の速度は急激である。
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