申請者は「華僑社会のエスニシティの維持・変動が祭祀・芸能にどのように反映しているか」という問題意識で、長崎、神戸、横浜の華僑社会及び華僑の出身地である中国福建省などで現地調査を行い、日本華僑の祭祀・芸能について包括的に把握し整理することに努め、日本の華僑の文化・社会のダイナミズムを研究してきた。 華僑が日本へ移住して以来の歴史は300年以上になる。その間、出身国中国では王朝の交替、民衆革命、政権の交替、文化大革命など様々な変革を歩んできた。その中で伝統文化の大変動、とりわけ多くのものが消滅するに至った。日本華僑の伝統文化とその変動を考えるとき、中国の歴史、東アジアにおける相互交流史の関連の中で検討することが重要であることを認識し、これまでの研究を踏まえた上で、長崎ランタンフェスティバルの生成・発展の過程に焦点を当て、グローバリゼーションの流れの中における、長崎独特の地域の特質と華僑エスニシティの変容の関係について再検討した。つまり、長崎は対外的には重工業の基礎を用いて、アジア区域内の国際分業を拡大させ、対内的に観光業による地域経済活性化を目指している。この戦略は、400年間にアジアとの交流の中で形成し蓄積した豊富な歴史文化資源の上に成り立つのであって、長崎地域社会に融合した華僑社会と華僑文化がそのような資源の大きな要素のひとつとなった。長崎ランタンフェスティバルの拡大、はこのような「地域のアジア化」の構想の流れと関連し、長崎市が求める観光振興への要請を背景に起こったのである。 さらに現在、世界各地の中国系の社会がダイナミックな動きを見せている時代であって、日本華僑社会における伝統文化特に祭祀・芸能の変容と再編の動きは日本だけではなく、北米、東南アジアなどの華僑社会も例外ではなく、その活発な活動が顕著になってきたと考えられる。このような研究の視点から、新たにアメリカ西海岸のサンフランシスコにあるチャイナタウンにおいて春節の行事を中心に研究調査を行い始めた。
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