日本華僑の伝統文化とその変動を考えるとき、中国歴史、東アジアにおける相互交流史の関連の中で検討することが重要であることを認識し、報告者はこれまでの研究を踏まえた上で、グローバリゼーションの流れの中における長崎独特の地域の特質と華僑エスニシティの変容の関係について再検討した。その結果として"Revitalization of Local Community and Ethnicity : Nagasaki's Lantern Festival Among the Immigrant Chinese"と「ローカル・イニシアティブ」などとして発表した。 しかし、華僑社会における伝統文化、特に祭祀・芸能の変容と再編の動きは日本だけではなく、北米、東南アジアなどの華僑社会においてもその活動が顕著になってきた。この視点から、報告者は新たにアメリカ西海岸のサンフランシスコのチャイナタウンにおける春節行事を中心に研究調査を行った。この調査を踏まえた上で、本報告書の第一部ではサンフランシスコ華人コミュニティの特徴、組織及び祭祀と芸能の実態、とくにサンフランシスコチャイナタウンにおける春節祭について論じる。 サンフランシスコに約20万人中国系移民演居住しており、これは、北米においても二番目に大きい。チャイナタウンは1800年代後半から中国人の移住によって形成され、現在、サンフランシスコの観光名所の一つであるものの、比較的に伝統的なローカル・コミュニティを維持してきた。チャイナタウンにおける春節祭は、1953年より始められ、今日まで53年の歴史を歩んできた。1970年代を境に春節祭が拡大、再編された。同じ春節祭でも日本のそれとはかなりの違いがある。それは華人の移住歴史、形態、移住地で形成した社会、組織、上位社会と本国の関係など、いろいろな要因によって生成されたのである。 さらに、チャイナタウンという伝統的なコミュニティ形態とは対照的に、第2部ではサンフランシスコの近郊にある中国系新移民コミュニティとくに中国の東北出身者について調査し考察した。彼らはこれまでの移民と異なる移住背景とルートを持ち、同じ地域に集中しながらも、伝統的なチャイナタウンのような町を形成せず分散して居住している。かれらは日常と非日常生活において殆ど中国本土と変わらないが、彼らの移住により、移住先では地域における人口構成、言語、経済活動、諸慣行などの変化が余儀なくされた。
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