本年度も平成16年度に引き続き、伝統的な狩猟技術が伝承される地域について、日本列島内を広範囲にまわり概観調査をおこなった。また、とくに石川県加賀市大聖寺(片野鴨池)に調査地を絞って、水田生態系が大きく変貌する以前の昭和初期に時間軸を設定し、当時の生業とくに水田稲作を復元するとともに、そこに伝承されるサカアミ(1辺2メートルほどの三角網)を用いた伝統カモ猟について写真および聞き取りにより記録した。また、市役所や大聖寺捕鴨組合に残される文献資料や統計資料を収集し分類整理した。 その結果、現在はまったく経済性を持たず趣味的におこなわれるだけのサカアミによる伝統カモ猟が近代においては重要な経済活動とくに農家における現金収入源としておこなわれていたこと、またそうした伝統カモ猟が大聖寺捕鴨組合という任意の団体により狩猟者数や猟具・猟場が厳しく管理されていたことが分かった。 さらには、そうしたカモ猟に関する厳しい自主規制があったからこそ、片野鴨池の自然が維持されてきた面のあることも分かった。ただし伝統カモ猟が自然保護思想にいうワイズ・ユースであったと一概に断じることはできない。サカアミのように地域に長く伝承されてきた民俗技術と自然環境との関わりについては、保全機能だけでなく、客観性を持ってさまざまな視点から調査分析する必要がある(この点は18年度の課題とする)。
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