今年度は、欧米各国の図書資料を幅広く収集し、各問題分野に応じた有益な比較法的文献を整理した。多くの文献や資料の精査により、ドイツやフランスなどヨーロッパ諸国における遺伝子医療の法的規制と日本における法的規制の間には、顕著な相違が認められるということを明らかにすることができた。そうした相違を医療法治国家と医療権力国家という対比、さらに医療倫理について講壇倫理と素朴倫理という対比の枠組を用いて、各国の法的対応の違いや違いの基礎にあるものが何かを分析する試みに着手した。そこからの着眼点として、日本の現在および今後の遺伝子医療規制の取り組みに対して、法化の未発達に帰因する幅広い法なき空間の様々な問題に対して注意を喚起する論文を発表した。 外国人学者との研究協力という点では、ベルリンからU.ローマン教授(アリス・ザロモン大学)を招き、2003年11月18日に東北大学で『ドイツにおける最近の医療倫理と医事法学の展開』というテーマで講演をしてもらい、数日間の仙台滞在の間に活発な議論を交わす機会をもつことができた。それにより、遺伝子医療の法理に関する法理論の構築の上で、理論的基礎固めが大いに進捗した。またゲッチンゲン大学医事法研究所のシュライバー教授やローゼナウ博士との間で、メールの交換という手段で多面的な情報交換を行うことができた。邦人学者としては、石塚伸一教授(龍谷大学)をはじめとする関西の医事法専門家との情報交換により、有益な刺激を得ることができた。 今回の申請研究にとり重要な基軸である法・権利に関するコンフリクト・パタン理論については、公表にこぎつけたDie Natur der Sache und die Patternangemessenheit...論文のなかでいかにヘックの利益法学の視座を発展させ動態的比較方法論を構築するかという点につき自説を詳細に論証し従来の構想を一歩進めた。
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