平成16年度は、前年度に収集した有益な比較法的文献の検討を通して、各国の法的対応の違いにはどのような背景があるか、とりわけ思想的文化的基礎は各国の法政策的対応の多様性にどのような影響を与えているか、という問題の解明に力点をおいた。遺伝子医療の法的規制のあり方という新しい問題については、遺憾ながら、未だ人類共通の普遍的法倫理的原理が完全な姿で浮かびあがっているわけではない。しかし、各国における思想的文化的背景とのつながりを詳細に追究することによって、議論の可動範囲はかなり狭まり、解決のためのいくつかの共通視点や共通の対応パタンが明らかとなりつつある。とりわけ法的対応に関するヨーロッパ大陸、イギリス、アメリカの間の相違が明らかとなるにつれて、これまでアメリカにばかり追随してきた日本の姿勢にはかなり問題があり、見直すべき点が多いという帰結が生じている。 外国人研究者との協力としては、ゲッチンゲン大学医事法研究所のシュライバー教授やローゼナオ博士との間でメールを通じてのやりとりを続けており、それに韓国の学者も加わった形で、生命倫理に関する共同シンポジュームを近く開催するという企画も立案中である。平成16年の11月に東北大学に招待したゲッチンゲン大学法学部の法制史家W.ゼラート名誉教授には、法学部で「ドイツから見た中国の古い顔と新しい顔」というテーマで講演をしてもらった(小生が主宰)。中国通のかれとの議論のなかで、中国における遺伝子医療の法政策のありかたにも目を向けなければならないことを痛感した。邦人学者としては、申請時に名を挙げた研究者のほか、京都大学、同志社大学の医事法専門家からも、意見交換や情報交換を通じて、有益な刺激を得ることができた。 今年度の研究成果は、すでに脱稿した体系書『法理学概説』のいくつかの章のなかに、貴重な着眼点として取り込んでいる。とりわけ欠缺補充を扱った24章と比較方法論の展望と題した最終章は、今年度の科研費研究と密接に連動している。この体系書は平成17年2月に脱稿済みであり、9月までの刊行に向けて、現在初校の校正作業と取り組んでいる。
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