ドイツ連邦憲法裁判所は、1981年のいわゆる「砂利採取決定」において、所有権の制約と収用との関係について、日本の判例学説でも支持されている特別犠牲説の考え方を斥け、基本法第14条第3項の文言に忠実に、所有権の法律による制約と収用とを峻別する立場を厳格に打ち出した。すなわち、「収用」として補償が支払われるのは、法律があらかじめ収用の要件と補償についての定めを置いている場合に限られ、そのような定めが欠けているときには民事裁判所は補償を与えることは許されず、もし法律に不備があれば憲法裁判所によって法律を違憲とする他はない、としたのである。それまで日本の実務と同様に特別犠牲説的な考えを採用してきたドイツの民事裁判所も、この憲法裁判所の姿勢に従い、ドイツの所有権理論は「砂利採取決定以後」の新時代に突入したのであった。これによって、いかなる場合に「収用」が存在するのか、という所有権理論最大の難問は解消されたかのようにも思われたが、その後四半世紀の学説の発展は、この難問は形を変えてまだ残存し、さらに多くの新しい問題が登場してきていることを明らかにしてきた。とくに最近の議論の焦点となっているのは、もし収用とみなさるべき事態が出来したとすれば補償が与えられるべき旨を謳う、無内容な「救済規定」の扱いである。かつてはこの種の規定は違憲であるとする見解が強かったが、砂利採取決定の立場を踏まえて、この種の規定は基本法第14条第3項の規定する収用ではなくて、同条第1項の定める所有権の内容規定が例外的に収用的に働く場面にかかわる規定として、その意義を評価する見解も出現しているが、未だ学説は流動的である。
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