研究概要 |
1次資料に関する作業については、Napoli控訴院管轄区内における20世紀初頭の名誉の事由に関わる刑事裁判事例22件の訴訟記録の綿密な解読を引き続きおこなった。そのほか、現地で収集した刑事法制史関連諸資料を詳細に分析する作業を継続した。また今年度も、とくに各国語関連文献を幅広く収集した。これらの文献を、もっぱら上記1次資料の文脈化作業のために利用しつつ、イタリア法文化の特質を明確にするための作業を引き続きおこなった。 具体的成果としては、まず、嬰児殺の容疑で起訴されながら陪審裁判で全員無罪となった女性たちの事例(f.7-f.99,1904)について、とくに「対質」という極めて興味深い手続に焦点を当て、フランス刑事訴訟法との比較史的分析をも含めて検討し、<法過程分析のケース・スタディ>として論文に仕上げた。また、すでに私自身の原稿は提出しているが他の執筆者の事情で単行書じたいの刊行が遅れているところの、名誉の事由をめぐる伊・仏・独・西の4カ国比較法史についての論文を、上記のように科研費によって今年度入手した新たな文献資料を活用することによって、遅延期間を利用して若干手直しする作業をおこなうことができた(2004年3月現在初校ゲラ印刷中)。そのほか、イタリアの社会福祉体制の現状分析についての論文に、科研費による研究成果の一部を活用することもできた(以上につき項目11参照)。 このような作業の全体を通じて、イタリア近代法空間における多元性、とくに名誉の法文化の輪郭を、具体的事例を通してミクロ的に、かつ比較法史分析を通してマクロ的に、解明する作業をさらに進め、イタリア法空間の歴史的多元構造を法社会史的に読み解こうとする学位請求論文の骨格をほぼ固めることができた。
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