研究概要 |
今年度は、19世紀末〜20世紀初頭の「名誉の事由」に関わるNapoliの刑事裁判事例の訴訟記録を、民事・行政関係史料を組み合わせることなどによって立体的に解読する作業を試みた。また今年度もイタリアを含む各国の関連文献史料を幅広く収集し分析し、もっぱら上記1次資料の文脈化作業、すなわちイタリア法文化の特質を明確にするための比較分析を進めるために利用した。平成16年7〜8月にかけて、および17年3月後半に、Napoli文書館にて時期を広げて関連訴訟史料等を収集し、また事件の起きた場所の地形等を自分で確かめてみたほか、対象こそRomaの裁判事例だが、ほとんど同じ方法論によるジェンダー法社会史の成果を小谷とほぼ同時に公表し始めたD.Rizzo教授とRomaで会って意見交換・情報交換をおこない、極めて有益な示唆を与えられた。 具体的成果としては、嬰児殺の容疑で起訴されながら陪審票決により過失致死で有罪という思わぬ結果になった、ある未婚女性の事例(f.16-f.724,1901)について、これまでの諸成果を適宜盛り込みつつ、16年7月に学会報告をおこなった。その後、同事例につき、現地での調査を遂行し、Rizzo教授の助言をも取り入れて、とくに証人たちのジェンダーと出自の問題に焦点を当て、法主体と法過程の相互作用分析に仕上げた(レフェリー付き学術誌に投稿し審査をパスして掲載)。そのほか、19世紀末のカトリック教会とイタリア王国の法的関係についての史料紹介、福祉レジーム論をめぐるイタリアにおける研究動向サーヴェイ論文に、本科研費による研究成果の一部を活用した。 このような作業の全体を通じて、イタリア近代法空間における歴史的多元構造、とくに名誉の法文化の輪郭を、具体的事例を通して比較法社会史的に解明した。
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