研究概要 |
19世紀末〜20世紀初頭の「名誉の事由」に関わるNapoliの刑事裁判事例の訴訟記録の立体的解読を試みた。民事・行政関係史料、新聞資料等をも組み合わせて分析を進めた。またイタリアを含む各国の関連文献史料を幅広く収集し、上記1次資料の文脈化作業のために利用した。 現地では、平成16年7〜8月および17年3月後半に、主としてNapoli文書館にて裁判記録等を探索・転写した。また、対象こそRomaの裁判事例だが、ほとんど同じ方法論によるジェンダー法社会史の成果を小谷とほぼ同時に公表し始めた若手歴史家D.Rizzo氏とRomaで会って意見交換・情報交換をおこない、またRomaで開催された法社会史研究セミナーの討議にもRizzo氏とともに参加し、いずれも極めて有益な研究上の示唆を与えられた。 具体的成果としては、とくに嬰児殺容疑で起訴されながら陪審裁判で全員無罪となった農婦たちの事例(f.7-f.99,1904)、および同じく嬰児殺容疑で起訴されながら陪審票決により過失致死で有罪という結果になった未婚女性の事例(f.16-f.724,1901)について、これまでの諸成果を盛り込みつつ、学会報告や論文として発表するための作業をおこなった。事件現場の調査を遂行し、またRizzo氏らイタリア人研究者の助言をも取り入れて、とくに対質という特徴的な刑事手続や陪審制度のフランス刑事法との比較法制史や、証人たちのジェンダーと出自の問題に焦点を当て、法主体と法過程の相互作用分析として仕上げた。そのほか「名誉の事由」をめぐる伊・仏・独・西の4力国比較法史論の改稿作業をおこなった(研究成果の公表については項目11を参照)。 このような作業の全体を通じて、イタリア近代法空間における歴史的多元構造、とくに名誉の法文化の輪郭を・具体的事例を通してミクロ的に、かつ比較法社会史分析を通じてマクロ的に、解明する作業を進めることができた。
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